INTERVIEW 事例紹介

IESE: 組織変革に強いスペイントップビジネススクールから見る日本

IESE学長 フランツ・ホイカンプ 様

海外ビジネススクール

IESE(イエセ)は1958年にナバラ大学(Universidad de Navarra)の大学院として設立された、バルセロナを拠点とするビジネススクールです。1964年には、ハーバード・ビジネス・スクールとの提携により、欧州初の2年制MBAプログラムを開始させた伝統あるビジネススクールで、フィナンシャルタイムズのエグゼクティブ教育ビジネススクールランキングでも6年連続で世界1位に選ばれています。今回はIESE学長のフランツ・ホイカンプ氏に当社代表の布留川がお話をお伺いしました。

(左から: 当社代表布留川、ホイカンプ学長、エグゼクティブ教育部門アジア統括 加賀谷氏)

 

技術の時代には、人間の存在がより重要になる

布留川: まずはIESEについてお聞きします。他のビジネススクールと比較して、IESEはどのような特色のあるビジネススクールでしょうか?

ホイカンプ学長: IESEはリーダーシップや組織変革のための人材育成に重きを置いています。社員が最高のパフォーマンスを出せるようにする方法、テクノロジーを通じて仕事をよりよく進めるためにはどうしたらいいのか、そういった課題に取り組んでいます。加速度的な変化が起こっている現在、人材の重要性がさらに高まっています。組織を作ったり、何らかの業績をもたらしたりするのは、最終的には人だからです。変化の時代において、人間の変化は不可欠です。技術を発達させるのはアルゴリズムを組み込んで機械に実行させるだけなので比較的単純とも言えます。ですが、人間を変えるのはもっと繊細な問題で、時間もかかります。技術の時代においては逆説的に、人間の存在がより重要になってきており、それがIESEが多くの企業に選ばれている理由でもあります。

布留川: IESEのバルセロナのキャンパスでは、教授陣や参加者はどこの国籍の人が多いですか?

ホイカンプ学長: IESEには現在120名ほどの教員が在籍しており、およそ30か国から集まっています。大部分はヨーロッパ出身ではありますが、南北アメリカやアジア出身の教員もいます。参加者は、MBAコースには約70か国から集まっています。エグゼクティブ・エデュケーション(幹部教育)の公開プログラムについては、90%の参加者はスペイン国外から来ています。スペイン国外からの参加者のほとんどは、ヨーロッパ諸国から来ています。ニューヨーク校でもエグゼクティブ・エデュケーションが開講されており、その参加者のほとんどは南北アメリカ出身です。

布留川: 学長自身もIESEで教鞭を取った経験があるとお聞きしたのですが、どのような分野を教えていらっしゃったのですか?

ホイカンプ学長: 私の専門は意思決定論です。意思決定の際の選択肢を明らかにして意思決定の構造化を行います。この分野には、リスクを踏まえて意思決定するプロセスを理解する部分と、人々がどのように不確実性に対処するのかを理解する部分、そして、実際に人々がどのように情報を取り入れどのように決断をするのか、を理解する部分があります。

多くの場合、人の耳には自分が聞きたいと思う情報ばかりが入ります。しかし、特にビジネスでは、異なる考え方に対してオープンな姿勢を持つことがとても重要です。人間が意思決定する際には直感と論理の二つが働きます。長年の経験・勘が積み重なった直感的な部分と、教育などで養われた理論的な部分です。自分の場合、その二つがどのように相互に作用し合い、意思決定を行っているのか?それを時折振り返ってみることは、組織のリーダーとしてとても大切です。私の専門分野ではそのようなことを扱っています。

 

得意分野だけに甘んじていていいのか?を常に問う

布留川: ホイカンプ学長はドイツのご出身と伺っています。日本とドイツは似ているとも言われますが、学長は日本とドイツの共通点や相違点についてどう考えますか?

ホイカンプ学長: 共通点もありますが、異なる点もあると思います。地理をとってみても、ドイツはヨーロッパの中心にあって10か国と国境を接しているのに対して、日本は島国です。これは、他者とのコミュニケーション方法の違いなどに影響を与えています。共通点としては、細部へのこだわりや常に物事を改善させようとする姿勢が挙げられます。そう考えると、現在の自動車産業が日本やドイツのメーカーに独占されているという点にも頷けます。自動車産業では、私たちのこのような特徴が活かされていると思います。ただ、日本もドイツも考える必要があるのは、イノベーションが得意か?新しい方法を取り入れながら、新たに物事を構築することは得意か?ということです。私たちは既存の枠組みの中で、問題がないように物事を進めることは得意です。しかし、そこに甘んじていいのだろうか?という視点は常に持つべきです

布留川: 日本では、高齢化社会や中国企業の躍進から、日本の未来に対して悲観的な人が多いです。ドイツではどのような状況でしょうか?同じように未来に対して悲観的な人が多いですか?

ホイカンプ学長: ドイツでは、悲観的というよりは未来を心配する人が多いように感じます。良い意味で心配性なのです。どんどん前に進んでいかないと、この先問題が起きてくるのではないかという点で心配していますが、私は、これは世界で起こっていることに関心を持っているポジティブな態度だと思います。

ドイツでは、中小企業が各業界でのマーケットリーダーになっていることが多いです。中小企業は生き残るために常に進化し、毎年物事を改善させようと努力しており、その原動力が「極度の心配性」なのです。ただ、10万人や20万人もいる大企業になると、組織を変革するのもその分難易度が上がるので、中小企業のようにはいきません。

成功している会社を分析する時に、その企業が成功して事業拡大をしている理由、マーケットを支配している理由を考えることが必要です。成功した理由を理解した上で、新しい時代の文脈に沿って解釈するのです。過去に成功していたからといって、これまで通りに続けていくだけではなく、時代に沿って物事を変えていくことが必要で、日本の大企業にとってはこれが最大の課題になると思います。

 

成功した理由を理解した上で、新しい時代の文脈に沿って解釈する

ホイカンプ学長:  階層的な組織では、変革の実行は難しいものです。しかし、日本企業では変化が起こりつつあります。実際、日本企業の中には、組織変革という課題に対しIESEと協働して取り組んでいる企業も増えてきています。10年前に私が初めて来日した頃、IESEと日本企業がこのような会話をすることはありませんでした。まだ対処しなければならない多くの課題がありますが、改革を始めるための土台がしっかりしている日本企業が多いので、私は楽観的にとらえています。

また、人々が未来に関して悲観的になっているのは、アメリカや中国のIT企業のバイタリティや成功に圧倒されているのだと思います。しかし成功している企業は一握りで、失敗している企業も多いのが現実です。成功企業のビジネスモデルから学べることもありますが、それ自体を真似することで成功につながるかは疑問です。大事なのは、成功した理由を学び、自分たちはどうするのか、ということです。

布留川: 日本社会では国民は将来のことを非常に心配しています。高齢化社会では日本企業の年功序列の人事制度が時代に合わなくなっていますが、人事制度を変えるのには時間がかかります。日本の法律上、パフォーマンスは低いが給与が高い社員を解雇するのは難しいので、人事制度の改革という難題に取り組まなければなりません。スペインやドイツでも同じような問題は生じていますか?日本はこの問題にどのように対処したらよいとお考えでしょうか?

ホイカンプ学長:  勤続年数が長い人を優遇する年功序列制度自体は悪いものではありません。年功序列制度の良い面は、組織が非常に結束しており、社員のエンゲージメントが高くて組織の成功を願っているところ、また組織内で多くの知識や経験が蓄積されやすい、というところです。年功序列制度の課題は、そこで働く多くの人が結束しているが故に、いかに組織を時代に合った形で前進させられるか?ということです。

変革というものは、組織の本来の目的を保持し続けるための方法です。先ほど申し上げたことと重なるかもしれませんが、過去の成功を踏襲するだけではなく、時代に沿って新たな方法を模索し、実行していくことが大切です。これは日本の経営層にとっては大きなチャレンジだという布留川さんの意見には同意しますが、これは日本に限ったことではありません。世界中どこにでも存在する課題です。

日本は高齢化社会による若年者の人口減や労働力不足に直面するので、社会の機能を維持するために思い切った施策が必要だというのも事実です。困難な状況はイノベーションを生み出します。労働集約型分野でのAIやロボットの実用化に関しては、日本は先進的だと思っています。以前、ファイナンシャルタイムズ紙の1面で、ユニクロがシャツを畳むロボットを開発したという記事を読みました。需要は発明の母と言えます。労働力不足を解決するため、今後、AI関連のテクノロジーが発達するでしょう。

 

シリコンバレーの優位性は続くのか?

布留川: 近年は中国やインドの多くのトップタレント人材がシリコンバレーで学んだり働いたりすることを望んでいます。シリコンバレーの企業は破格の待遇で迎えてくれますし、仕事でも多くの刺激を受けることができますので。ヨーロッパでも若いトップタレント人材は同じようにシリコンバレーを目指そうとする傾向はありますか?

ホイカンプ学長:  シリコンバレーの企業を称賛する人たちがいるのは確かです。デジタル技術とビジネスの結びつきや、そこでの仕事について学ぶことを目的とし、シリコンバレーに滞在する人たちもいます。成績優秀な人の中にはシリコンバレーを目指す人たちもいますが、社会のトレンドになるほどではないと思います。それよりも、ヨーロッパ、そしてアメリカの中ですら、シリコンバレーの企業のビジネス手法に非常に批判的な見解を持つ人たちが増加しています。もちろんシリコンバレー発のサービスは人気がありますが、手法に対して批判があり、もはや以前のような称賛はありません。それが私の印象です。しかしサイエンスとビジネスの相互作用が非常に成功しているおかげで多くの革新的なイノベーションがシリコンバレーの企業から生まれていることは事実です。

 

ビジネススクールへ参加する日本人へのアドバイス

布留川: 近年、特にヨーロッパ発祥のビジネススクールでは、受講生同士がより深く学べるように様々な取り組みをしている印象を受けています。つまり、ケーススタディなどでの発言をどう担保して、どう受講者同士の学びを深めるか、という問いです。IESEでは、受講生の学びを深めるために、どのような取り組みを行っていますか?

ホイカンプ学長: 私の経験から申し上げると、ビジネススクールで一般的になっているアメリカ式のケーススタディのディスカッションを行う際、ノンネイティブかつ非アメリカ文化圏からの参加者は十分な準備をしないと、議論に参加できていないと映ってしまいがちです。ディスカッションで発言が少ないのは日本人だけではありません。ビジネススクールにおける学習メソッドの多くはアングロサクソン流であるため、アングロサクソン文化圏外からの参加者はビジネススクールでの学習メソッドに慣れる必要があります。また、参加者が発言するよりも、教授が話すことを優先する文化圏からの参加者は、より一層準備に時間をかける必要があります。

アングロサクソン文化圏外からの参加者が、アングロサクソン文化圏からの参加者と同じように講義に参加できると思わない方がいいでしょう。講義では教授はまず、「あなたはどう思いますか?」と参加者に質問して、参加者が答えるのを待つことが重要です。もし良い質疑応答ができれば、そこから参加者の個人的背景を知ることができ、周りの参加者もその参加者が会社で自分と同じような経験をしている、などの情報が分かり、それをきっかけとしてネットワーキングやプログラムへの貢献につながることもあります。IESEにはこれまで多くの日本人が参加していますし、日本以外の国からの参加者も多く受け入れています。そこからの知見を活かし、IESEは様々な参加者への対応方法を心得ていますので、有意義に学習していただけるようになっています。

布留川: 本日はありがとうございました。

お話をお伺いしたのは

IESE学長 

フランツ・ホイカンプ(Franz Heukamp) 様

ドイツ出身。マサチューセッツ工科大学工学博士。
IESEで意思決定論を教える傍ら、事務局長やMBAプログラム担当副学長を務めるなどして、2016年より現職。
企業経営者にとって最適な意思決定とは何か、不確実性の下での意思決定について行動経済学と脳科学の分野から探求するのが専門。また、国別の幸福度についても研究している。IESEの学長としては以下の4つの柱を自らの任務として掲げている。
・IESEの活動範囲の一層の国際化
・高齢化社会における生涯教育の提供
・マネジメント教育、リーダーシップ研修のデジタル化
・社会へのインパクト