布留川 勝の人材育成の現場日記

グローバルリーダー育成機関としての米国エグゼクティブプログラム

2006/09/01

ビジネススクール

リーダーシップ

6535b249.jpg6月から7月にかけてビジネスクールのエグゼクティブプログラムの調査もあり、米国(ボストン、ニューヨーク、サンフランシスコ)を2週間回ってきた。今回改めて、グローバルリーダー育成の最前線は米国ビジネススクールだと再認識したのでレポートしたい。

私が、欧米のエグゼクティブプログラムがグローバルリーダー育成に有効であると考える理由は以下である。

1)プログラム参加者と教授がプロフェショナルかつ多国籍(後述するスタンフォードのSEP (The Stanford Executive Program)の場合30カ国以上)であること。研修プログラムの質を左右するのは、講師と参加者であり、その意味ではエグゼクティブクラスの研修でこれ以上の組み合わせは考えにくい。

2)変化とスピードのある経営に求められるコンセプチュアルな思考が鍛えられること。知識ではなく徹底的に思考力が求められる。

3)グローバルリーダーの手本のような参加者が多く、クラス内外での交流で彼らからダイレクトに学べること。

まず、参考までにエグゼクティブプログラムをわかりやすく説明すると、経営大学院が運営する通常10週間までの経営者、管理職を対象としたプログラムである。同じ経営大学院が運営するからかよく混同されることがあるMBAは、対象者は実務経験5-7年で20代後半の年齢層が中心で、2年間で経営学修士の学位を取得するものを指している。米国ではMBAは個人が自費で取得するのが一般的で、対照的にエグゼクティブプログラムの参加者は90%以上が企業派遣である。有能な管理者が最新の経営のノウハウを身につけたり、人脈を広げたりするのが主な目的であるが、多分にインセンティブ的な意味合いもある。要するに、役員、事業部長クラスへのフリンジベネフィット(給与以外の報酬)でもある。2ヶ月程度で500-600万円の参加費であるから、選ばれた本人は自分が功労者かつ今後も活躍を期待される人材と認められたことを実感する。

実際、今回コロンビアとスタンフォードのプログラムに参加してきたが、教授と参加者の有能さ、クラスルームや宿泊施設、食事の質は脱帽ものである。教授は米国、ヨーロッパのトップスクールの間で壮絶な争奪戦が行われているだけあって、自他共に認める世界のトップレベルである。また、MBAを教える教授陣で上位にランクされないとエグゼクティブプログラムの教授にはなれない。加えて、参加者は各企業のスクリーニングを通ってきているので、マネジメント経験や専門性、人間的な魅力も含めてみなAクラス人材である。
昨年のスタンフォードの上級管理者向けコースのSEP(http://www.gsb.stanford.edu/exed/sep/index.html)には、最新著書の『仮説思考』でも注目される内田和成(http://www.kaz-uchida.com/profile/profile.html)氏(前ボストンコンサルティング代表)などのトップコンサルタントも参加している。先日ご自身の経験をお伺いにオフィスにお伺いして話を伺った。内田氏の場合は、サバティカル(研究休暇)であったようで、普通の管理職の参加の位置づけとは少し違うが、コースの様子がわかる話を聞くことができた。昨年の参加者は108名で2クラスに分かれた。国籍は米国人1/3、ヨーロッパ人1/3、日本からは8名、その他はアジアからはシンガポール人の参加が目立ったようである。年齢層は30-40歳代が中心,50歳代が少しといったところで、大学の学長などの参加者もいたようである。氏によると、よく比較されるハーバードのAMPの参加者がIBM, シティバンクなどのエスタブリッシュメント系企業からの派遣が多いのに比べ、スタンフォードにはシスコシステムズ, インテルなどのシリコンバレーのIT企業からの参加が目立ったとのことである。

私が今回3日間だけ参加した今年のSEPも人数、参加者国籍はほぼ同様であった。内田氏が参加したクラスでも、某航空会社の会社役員の発言がとても目立ったようであるが、私が参加したクラスにおいても1名のドイツ人参加者がかなりのパートで存在感を発揮していた。経験に裏打ちされた論理展開で、非常に説得力がある。ここでも2・6・2の法則は通用するようで、2割の参加者が常にクラス内で発言の主導権を握り、2割はほとんど発言しない。残念ながらこの2割の中に日本人参加者が多く含まれる。残りの6割が内容によっては発言したりしなかったりといった様子である。トップエグゼクティブのクラスメートに囲まれる中で、自分の意見を堂々と発言し、すかさず反論に論理的に反駁するスキルの自信がないとなかなか挙手してディスカッションには入り込めない。しかも、言語は英語であるから日本人のようなノンネイティブには恐怖感があって当然である。クラスの様子はそれほど緊迫感があるわけではない。むしろ笑いも多くファシリテーターとしての教授がリラックスした雰囲気を作り出す。私は、すり鉢型になったクラスルームの最前列に座り発言しようと試みたが、残念ながら時間切れで不発に終わった。自分でトライしてみるとわかるが、発言の前に自分の意見をいくつかの角度から検証しているうちにほかの参加者が手をあげているのだ。エグゼクティブプログラムでは7-8割意見が固まったら手を上げ、発言しながら考えをまとめていくスキルが求められる。

今回弊社クライアントの役員2名もSEPに参加中であった。コーススタート2週目であったので、二人ともクラスが終わるとすぐに部屋に閉じこもり、ケースの読み込みがあるので食事の時にしか話ができなかったが、ネイティブでも全部読みきれないケースの読み込みはノンネイティブの日本人にとっては想像以上の苦痛を伴う。特に慣れないコース前半は苦しい。先々週、今回のSEPを修了し、帰国されたM氏が私と弊社担当者2名を食事に招待してくれた。M氏は現在3000名の社員を率いる52歳の社長であるが、弊社が準備した渡米前のSEP準備コースを激務の合間を縫って週末こなし、プログラムに臨んだ。海外留学・赴任経験のないM氏にとって2ヶ月間のSEPは、英語の壁が大きく立ちふさがる世界でもあったが、自分がそんな世界でも十分に通用することを認識できる貴重な経験でもあった。

食事をしながらSEPの様子を伺った。すばらしいユーモアの持ち主であるM氏は同席の人材開発担当のH氏と私たち3名を十分楽しませながら、英語力がネックになった状態でいかに工夫してこのプログラムをご自分のモノにしていかれたのかを語ってくれた。まさに痛快であり、『転んでもただでは起きないどころか、転んだところからもっと何かを求める』姿勢にこちらも勇気を頂き、今回コア人材としてのM氏がコア・グローバル人材として更なるステップを踏み出すきっかけになったことを確信し嬉しくなった。

それまで国内畑で活躍してきた40-50代の管理職がグローバルリーダー化するには、本人の意欲、柔軟な考え方、そのために自分を変える痛みに挑戦し、そのことに時間を惜しみなく使う姿勢が問われてくる。ただでさえ多忙な上級管理職が越えるハードルとしては結構高い。まして、40代も半ばを過ぎるともう無理だ、というホンネもしょっちゅう聞こえてくる。そんな状態に強烈なインパクトを与えられるのが、欧米のトップビジネススクールのエグゼクティブプログラムである。異質の世界、自分と同世代の多国籍クラスメートの価値観の相違、行動力、キャリア開発に対する強い意識を身近に体験し、本当の自分が見えてくる。日本の社会では見えにくい何かが… 実際、2ヶ月のプログラムを修了した参加者は、スキルや知識アップではなく『グローバルビジネスの苦手意識』という皮が、ひとかわ剥ける。

次回は、若手管理職を対象としたコロンビアビジネススクール『Fundamental of Management』の様子をお伝えしたい。

写真はスタンフォード大学のカフェで談笑するSEP参加者。


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