布留川 勝の人材育成の現場日記

「低価格低品質VS高価格高品質」とその裏側の大問題

2010/08/18

エッセイ

75f41c72.jpg前回に引き続き、G研第54回のAndrew Isaacs氏(カリフォルニア大学バークレー校Haas School of Business, MOTプログラムディレクター)のパートについて書かせていただく。

私にとって特に印象に残ったのは、『Disruptive Business Model(破壊的なビジネスモデル)』である。これは、一言でいえば、これまでマーケットにはなかったほどの非常に低価格だが低品質の商品が従来のマーケットを占めていた高価格高品質の商品・サービスを駆逐するというビジネスモデルのことであり、言葉通り非常に破壊的なのである。

上のスライドは、米国、日本、中国、韓国の輸出総額とGDPの比較表である。意外にも輸出大国日本の輸出額はGDPと比較すると15%でしかない。韓国の42%、中国の39%と比較し非常に低い。中国と韓国はなぜこのように輸出を伸ばすことが出来たのか?新興国向けには『Disruptive Business Model』戦略を取ったことにあると言われている。
日本と異なり、低価格低品質でシェアを独占するというやり方だ。
もし、日本が中国や韓国並みに輸出を伸ばすことができたら、税収も大幅に伸び財政的にも大きく寄与する。

しかし、日本では、低価格・中/高品質であれば容認されるが、低価格低品質の商品やサービスはほとんど受け入れられない。したがって、そのカテゴリーに入る商品はなかなか開発もされないし、市場でも見つけにくい。一方、最近新興国市場ででは(それだけでなく米国でも)、日本企業がこの低価格低品質にシェアを奪われている。理由は単純である。購買力の低い新興国の企業も人は、その購買力の範囲内でモノやサービス探すからである。より長期間に渡って使える機械や、よりクリアな映像の見えるTVは購入したいが予算がない。3年しか使えなくても、映像の質が低くても価格が半分以下であれば今はそれでいいのだ。一家で始めて買うPCは、ハイエンド機種である必要はなく、インターネットにつながり、ワープロと表計算ができれば十分なのである。これはごく当たり前の理屈であり、日本企業も技術的には低価格低品質市場への参入は可能であるが、日本企業/人は「安かろう悪かろう」は作りたがらない。言い換えれば、低品質の製品やサービスを製造・提供することの社内コンセンサスをとることには何層もの厚くて高いハードルがある。最近ではユニクロが低価格高品質というある意味破壊的といえる動きも見られるが、あくまで主流は高価格高品質か中価格高品質である。問題は、その低価格低品質の企業が高収益を上げ、高価格高品質に固執する企業の収益を多く上回っている事実である。もし今後この状態が長期にわたって持続すれば、中国や韓国などの高収益企業は財務体質も強固になり、ノウハウも蓄積され、それほど遠くない将来には高価格高品質領域にも侵食し始めるだろう。

そして、もうひとつの大問題がある。新興国の人材と先進国の人材の競合である。
これはDisruptive Business Modelとは異なり、先進国の高賃金だがグローバルビジネスでの生産性は低い低生産性人材と、新興国の低賃金だが、高生産性人材が同じ労働市場に混在するグローバル化した社会である。この平準化が今急速に進み始めている。

弊社に舞い込む案件の多くはグローバルという枠組みで見た高賃金低生産性人材(国内では高生産性をもつが、グローバルでの生産性は極端に落ちる人材のこと)、を高賃金高生産性人材に変える仕組み作りである。

先進国企業はどのようにしてこの状況に立ち向かうべきなのか?
Isaacs氏は、とにもかくにも、まずは市場を破壊している低価格低品質の商品を購入してみることで、この世の中で一体何が起きているのかを体感することを勧めている。
グローバル人材育成においても同感である。
自分たちが戦い・協働する相手はどのようなマインド&スキルを持っているのか?パッションと好奇心を持って知ることが第一歩だと考えている。

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